Entries

星新一 一〇〇一話をつくった人



星新一のショートショートは、私たちにとって当たり前のように存在していました。教科書にも載っているし、学校の図書館にある中では特に読んでいて面白い本でもあります。一話が短いこともあって、SF作品の中ではかなり読みやすいものとして、多くの人が読んでいました。それなのに、私は星新一のことをほとんど何も知りませんでした。人物像として知っていたことは、製薬会社の御曹司だったことぐらいでしょう。でも今ある製薬会社を見ても、星製薬なんてありませんから、星新一と現在の私たちをつなぐものは、やっぱりほとんどありませんでした。

絶対音感などで知られるノンフィクション作家の最相葉月さんが星新一の本を出している。それを知った時から、ずっとこの本が気になっていました。東大の図書館にも蔵書があったのですが、貸出中であることが多く、ようやく手にすることができました。

星新一のことを知りたくて読みだしたわけですが、そこに書いてあったのは日本でSFというジャンルが立ち上がるまさにその様子でした。私は理系の学生ですからもちろんSFは大好きですし、漫画やアニメ、ゲームといったいわゆるサブカルから小説、映画まであらゆるチャンネルからSF的題材と触れ合ってきました。そんなわけで、星新一の存在以上に当たり前に考えていたSFというものが、わずか半世紀ほどの歴史しか持たないことに衝撃を受けました。そして、日本にSFというものを定着させるのに星新一が果たした役割の大きさに驚きました。
こんなに驚くのは、私たち平成の世に育った若い者たちが、何の違和感も持たずに星新一の作品を読んできたからにほかなりません。あたかも同時代か、せいぜい昭和の末期に書かれたと思っていた作品たちが、半世紀も昔に書かれたものだったのです。星新一自身も時代性の排除に腐心していたということですから、その試みは完璧に成功しています。あるいは、私たちがここ20年で目撃したコンピュータとインターネットが社会にもたらした変化が、半世紀という時間に育てられた違和感を陳腐化してしまったのかもしれません。

本書を読んでいくと、作家としての星新一のほかに、星製薬の御曹司星親一の苦悩も見えてきます。カリスマ的実業家の父親が急逝したことで表舞台に引っ張り出された二十歳そこらの御曹司にできることなんてほとんどないわけですから、彼の置かれた状況は理不尽そのものでした。その困難を乗り越えて、よくぞあんなすばらしい作品を残してくれたと、また星新一がいっそう好きになりました。
関連記事
東大生ブログランキング
この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)
http://straitgate.blog112.fc2.com/tb.php/362-944a28e0

0件のトラックバック

0件のコメント

コメントの投稿

投稿フォーム
投稿した内容は管理者にだけ閲覧出来ます

Appendix

プロフィール

othmer

Author:othmer
下流社会から東大を目指した。
東京大学工学部卒業。
同大学院工学系研究科。

東大生ブログランキング


「お前を東大にやる金はない」
そう言われても諦めず、このblogを見つけた君にささげよう。
私は乗り越えた。君にもきっと、できる。


質問など返答が必要な場合はメールでお問い合わせください。
※PCからメール(hotmail.com)を受信できるようにしてください。
※ご自身のメールアドレスが間違ってないか確認してください。返事ができません。

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索